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 トップのためのマネー講座 ─ 世界のオーナー達のつぶやき ─

§ こんなお金持ちのための銀行

まだ資産管理・運用の仕事をしていた当時、頻繁に海外に出かけた。現地での訪問先のナンバーワンは投資資運用会社で、成績優秀なファンドマネージャーたちに直接会って投資方針や人柄を確認するのが目的だ。彼等は元ボクサー、元NASAの宇宙工学専門家と実に多彩で、なかには詐欺師さえいた。数の上では劣るがその次が銀行、とりわけプライベート・バンクであった。米英のみならず、スイス、ルクセンブルグ、オーストリアの諸銀行を訪問した。主目的は資産保管やファンド組成の相談でよくご馳走にもなった。以下特に個性的なプライベート・バンクの横顔を紹介したい。
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◆エヒンガー銀行

1991年スイスのバーゼルにエヒンガー銀行を訪れたときは文字通りショックを受けた。1810年創立、母方がエヒンガー家の出だという取締役、ロバートを紹介された。 小さな銀行だとは聞いていたが立派ではあるもののどうみたって古いお屋敷くらいにしか見えない。当時は行員数は約30名、英語を話すのは二人のみ、 幾らプライベート・バンクとはいえ30人では、と心配する私に、「バーゼルの人達と共に歩んできた信頼されている銀行なんだよ、 スモール イズ ビューティフル(小さいことは素晴らしいこと)さ」と、この銀行を長年贔屓にしている連れのイギリス人が言った。
銀行内部は木の床に古い家具が鎮座し、天井まで届く本棚には古い装丁の本がぎっしり納められている。リフォームや増築を重ねてきたのだろう、 部屋がまるで迷路のように続き迷子になりかねない。ロバートは子どもの頃は銀行内に住んでいて、金庫の中でよく遊んだという。
小さなエヒンガー銀行だが通常の銀行と同様預貯金は勿論、資産運用、保管業務、貸付まで行う。しかしこの銀行はその後SBCに買収され、 最終的にはUBSの傘下にはいることになるが、エヒンガー銀行の名前は売らなかった由。ロバートは今年65歳になってエヒンガーの冠を復活させ、 今度はファミリー・オフィスを開設、昔からの顧客の資産運用を再度引き受けるそうだ。
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◆バンク メディチ

冬のウィーンはともかく寒い。「オーストリア銀行に資本参加して貰って新しく銀行を作ったの。見に来て」との友人からの電話に誘われて2月のウィーン飛行場に降り立った。 新銀行を立ち上げてまだ1ヶ月であった。その友人はソニア、女性だ。何時寝る時間があるのかと思うほど仕事熱心で世界の金融界の重鎮たちとの繋がりも深く 殆ど四六時中世界各国を飛び回っている。すでに4人の子供を育てあげ、孫も5、6人はいるはずだ。
オーストリア銀行本店の直ぐ脇にそのプライベート・バンクはあった。確かに瀟洒な構えのオフィスだが何せ小さい。コンピューターなどの管理費が膨大になるのではないかと 心配する私に、「全部オーストリア銀行のシステムを使わせて貰うから問題ないの」とソニアはこともなげに言う。渡されたパンフレットはまさに超デラックス、 厳かと言ってもいいほどの出来栄えであった。行員の人数は記されていなかったが10数名であろうか。しかし役員の何人かはオーストリア政府の閣僚経験者だった。
知リあってかれこれ15年位になるであろうか。この間ソニアは金融のありとあらゆる分野に首をつっこんできた。銀行業の教科書の著者に名前を連ねるほどの知識人でもある。 日本の不良債権問題にもいち早く着目していた。大体彼女から問題提起があって5〜6年たつとようやく世の中の方が追いついてくる。小回りのきく銀行を持つメリット、 彼女はいち早くその臭いを嗅ぎつけたにちがいない。日本企業との提携も模索しており東ヨーロッパへの窓口として使って貰いたいとも言っていた。 ちなみに秘密保持というとすぐスイスを思い浮かべるが、オーストリア、レバノンそしてハンガリーもたしか「自分達の国の秘密保持規制はスイスより厳しい」と言っていた。
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◆外人専用銀行

ヨーロッパ型のプライベート・バンクは法制上アメリカでは無理だと思っていたら、去年会議で会ったアメリカ人のバンカーが言った。 「コロラド州が外人富裕層の資金導入を図る為特別な法律を制定したので早速スイス型のプライベート・バンクを作った。第一号だ」。偽名での口座開設さえ可能で、 顧客情報の漏洩はスイス同様懲役刑の対象となるという。但しアメリカ人のお金は扱えない。コロラド州デンバーにその銀行はあるのだが、 何せクライアントはすべて海外居住の外国人なので、自分達の方から出向いて商談を行う。富裕層が対象だからデビットカードも億単位のものを出すらしい。 彼自身は大金持ち達の資産管理をするファミリー・オフィスを運営し、彼等の投資先を見付ける傍ら自らも小額投資しているうちに富を築いたとのこと。 規模は小さくても馴じみ客のお金が入ってくれれば経営は安定するのだろう。
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◆ハリス銀行

米国の銀行にはあちこち随分お邪魔したが、今年の6月は米国シカゴにあるハリス銀行の本店で昼食に招かれた。多くの銀行が自前のコックを抱えており素晴らしい料理を プライベート・ルームでふるまってくれる。(ちなみに日銀もなかなかである。) ハリス銀行では富裕層を担当するプライベート・バンクのチームと昼食をともにした。 資産25億円以上の人が対象とのことだが、この銀行の顧問をしている友人の話によると100億円以上がメインなのだそうだ。この銀行は1882年N.W.ハリスにより設立された。 まだハリス家の人が頭取をしていた頃は、クリスマスにハム一本と10ドルが行員全員に配られたそうだ。いかにも家族的で、NYにある投資銀行のイメージとは大分違う。
顧客との息の長い関係を大前提としていて、チームリーダーのケネスさんも10年、20年客と付き合う。彼等の別荘や結婚式にも招かれるという。 運用の際はアセット・アロケーションを顧客と徹底的に討議して決め、その結果に基づき債券、株式、ハリス内外のファンドを使って運用をする。 最近の傾向として、他銀行や投資運用会社への預け入れ分も含めた一括包括的な資産報告書の作成の依頼が増えているという。 資産家にとってそれだけコスト高にはなるが、資産状況が一目で解り、不正のチェックにもなる。
話が佳境にはいったところでデザート・メニューが渡される。ハリス・サンデーというチョコレート・パフェがいの一番に載っていた。「デザートは結構です」というと、 「当行のお客さんの中にはハリス・サンデーが食べたくてわざわざシカゴまで来る人もいるのに」と言われた。ハリスのお客さんはかなり体重オーバーになっているに違いない。
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◆プライベート・バンクと付き合うときの注意

以上プライベート・バンクを中心に日本人にとってめずらしいと思われる銀行の幾つかを取り上げた。 最後にプライベート・バンク、或いは同種のサービスを提供するプライベート・バンキング利用上の注意点を述べよう。日本人は特に感傷的な国民性のせいかムードに弱い。 プライベート・バンクに対するある種の妄信的なあこがれがあるので充分に気をつける必要があろう。
  1. 信頼の置けるプライベート・バンクかどうか調べること ─ 本社さえ登録地に存在しないようなイカサマプライベート・バンクに注意。
  2. プライベート・バンクとて営利企業であり、個人のニーズに対応するためにはかなりの報酬を要求してくる。取引にかかる経費、保管費用など詳細にチェックすべきである。
  3. すべての経費は交渉次第と心得ていた方がよい。
  4. 銀行といえども間違いを犯す。時には売り買いすら間違えるので絶えずチェックが必要である。
  5. プライベート・バンクなら運用が上手だと思うのは勘違いである。
  6. 世界の金持ちを相手にしているので有名な大銀行ほど小口の顧客には眼を向けてくれない。
  7. すべて担当者次第、いかによい銀行でも担当者がダメなら惨めな思いをする。
こうした諸点を理解した上で自分の資産レベル、自分の考えに適ったプライベート・バンク、そして何より相性の良い担当者が見つかれば末永いお付き合いができよう。
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(企業家倶楽部、2005年12月号「世界のオーナー達のつぶやき」に掲載)
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