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 トップのためのマネー講座

§ 社会貢献のノウハウ

◆なぜ社会貢献をするのか

 数多くの企業が社会貢献活動に携わっている。寄付、商品や施設の提供、全社員参加型の チャリティー、社員が行うボランティア活動への補助、ボランティア休暇制の採用、そして最近は 本業におけるフィランソロピーがうたわれてている。その意図するところも地域への貢献、企業の 社会的責任、イメージアップ、会社に何かあった時のリスクヘッジなど様々であろう。
 対して個人レベルでの社会貢献活動はどうなのであろうか。色々な方に何をしたいか聞いて みたことがある。現代版寺小屋を開きたい、交響楽団をサポートする、自分の美術館を作る、 若い起業家の応援をするなど様々だった。私にはそうしたはっきりしたビジョンがないので感心 したのだが、それでも「お金や暇が出来てから」の話がほとんどであった。日本ではまだ功を なし名を遂げてからやっと社会に顔が向くのかもしれない。ただ、今すぐとはいかない場合でも 「これこれを社会の為にやりたい」というイメージは徐々に膨らませていきたい。企業家、 企業家を目指す人にとってはそれがエネルギーとも福の神ともなろう。

 何も特別なことはしなくても、自分の職業を良心的に行い税金を払うこと自体すでに社会 貢献であり、子供を立派に育てることなどはこの上ない貢献と言えよう。しかし、それ以上に 何か社会に還元すべく、寄付やボランティア活動をすることを、或る人は「恵まれている者の 特権であり責任」或る人は「自分が幸せになるため」と言う。
 欧米では寄付をする慈善の意識は宗教的背景もあり金持ちに限られていないところが興味 深い。米国の低所得層の所得に占める寄付金の率は意外に高いのである。生活保護を受け ている階層の子供達を対象に行われたイギリスの調査は、「お金が手に入ったらどうするか」と いう質問に対して「寄付をすると」いう答えが多かったと報じている。
 富裕層による寄付の背景に「相続対策」があるのは欧米も日本と同様である。慈善専門の アドバイザーは資産家にこのように話しかける。「あなた方の資産について考えてみましょう。 三つのチョイスがあります。税金という形で政府に献上する、子供に渡す、自分の信じる活動 に寄付する、どれにしましょうか」と問われて、政府に献上したいと言う人は殆どなく、子供へも 多額の資産が渡るとかえって勤労意欲、達成感の妨げになるので好ましくない、と考える人が 最近は増えてきたそうだ。いずれにせよ、税金に持っていかれるよりは社会に役立つお金の 使い方をしようと、慈善アドバイザーの思惑通り余生を社会貢献活動に捧げ充実した生活を おくる人の話を耳にする。こうして美術館が、病院がそして障害児の為の休暇村などが建設 されてきた。結局、自分の死後残せるものはそういった自分が与えたものだけという意識が あるのだろうか。


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◆日本人の特徴

 寄付やボランティアに関して日本人には社会的な責任は政府が負うという発想が根強い。 また税制面の優遇が限定的なこともあって、個人からの寄付額自体は欧米に比較して極端に 少なく、寄付額の決定も横並び意識のせいか、割り当てられた額、あるいは奉加帳が回って きて他人との比較で決める傾向が強い。自分がお世話になった社会に恩返しをという気持ち はあるのだが、「自分はこの活動を支持する」という信念を持っている人は少ない。また「陰徳」 という精神文化の故か、何か善いことを黙ってすれば「陽報」が自分でなくても身内に何時か 還ってくるという考え方なので、善いこと、寄付をすること事体が目的となってしまう気味がある。 そのお金がどう扱われるのか、飲み食いなどではなく本来の目的のためにきちんと効率的に 使われているか厳しくチェックするという姿勢はない。また「貧者の一灯」という言葉も私達日本人 は大好きで、気前よく多額の寄付をした人に対して特別扱いをするのを潔よしとしない。慈善 の価値を金額で量るのは良くないのである。「陰徳」の考えからしても、自分の行っている社会 貢献を派手に宣伝したりすると「運動をプロモートしている」というより「売名行為」とみなされて しまう。

 ボランティア運動にしてもやはりそれは社会福祉の一環で政府の仕事であるとみなされ、 また宗教上の違いもあって欧米諸国に比べ低調であったのだが、阪神淡路地震をきっかけに 裾野が広がり、その後法制面での整備を後押しに飛躍的な伸びを見せている。従前より日本人 はあかの他人の為というよりは「村のため、親戚の為」に補助をしてきた。相互補助なのである。 今後老齢化の波が都市部にも及ぶのは必至であり、老人福祉一つとっても、相互扶助を加味 したボランティア運動はまさに時代が求めているところではないか。ポイント制の導入、地域 通貨との連動など実行面では種々の工夫が積み重ねられていくであろうが、根源はボランティア 精神である。


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◆社会貢献のノウハウ

 寄付を含む社会貢献のやり方にもまたノウハウが必要なのである。善いことをするのだから 適当にやっていたのでは時にはそれが益でなく、かえって害をさえもたらしてしまう。プログラム 作りにおいても受け手の気持ちを傷つけず、自立に導くような援助にするなどの配慮がなされ ないと、受取る人の依存心を却って深める強める結果になったり、卑屈にさせてしまうなど、 弊害をともないかねない。折角始めた社会貢献運動にどう参加者の興味をつなぎとめていくか もノウハウなら、海外援助の場合では中間搾取を排除して最終受益者に直接援助が届くルート の賢い選択もまたノウハウである。寄付や奉仕プログラムの成果をどう評価するのか。これらの ノウハウの蓄積があってこそ実のある貢献となる。

 数年前よりベンチャー・フィランソロピー、創造的社会貢献という言葉をよく聞くようになった。 寄付や奉仕、あるいは大きな社会貢献事業を展開する際、起業家的な手法、ベンチャー・ キャピタリストの評価手法を採用して、つまり非営利活動にも営利企業の目的遂行ノウハウを 取り入れようとする試みが始められている。社会貢献活動でもビジョンの策定、効果的戦略と マーケティングの展開そして成果の説明責任が問われるのである。ヤマト福祉財団理事長の 小倉昌男理事長の発想にもそれをみることができる。社会的な課題に事業的手法を活用する ことを促す「ビジネス・コンペティション」2002年受賞は各商店街を母体とする共済組合を設立 して各地域と連携し、地方活性化とともに災害発生時に疎開先として助け合う共済事業を展開 した木下斉氏に贈られた。

 昨今資産家アドバイザーたちは慈善、社会貢献運動に二世教育をからませる。つまり、財団 やその他の社会貢献プログラムに子供を参加させることで、ファミリーの信条を子弟に伝える よう促す。また、ファミリー財団の運営に子供をごく若いうちから関与させることで、リーダー シップ育成、コミュニケーション術や発表技術の向上、投資教育などの後継者教育になると 説く。実際、社会貢献活動を親子が共に行えば親子が接する機会も増え、自然と親子間の コミュニケーションも良くなり、これだけでも同族経営の事業承継に大きな役割を果たすことに なる。皆さんも社会貢献活動を行うときは、個人であれ、会社単位のものであれ是非子供を 同伴して欲しい。幼いうちから他人の為にお金やエネルギーを使うという頭の回路をつくって おけばそれは青少年問題の歯止めともなろう。
 実際にボランティアをした人は口々に「与えたより多くのものを受け取った」と言う。その中 には「意外性」という贈り物もある。人は新しい角度で接せられたり、ものを頼まれた時自分の 意外な側面を見出す。自分の仕事の世界とは別の人間関係が構築されていくのは楽しい。 日本では政府、企業につぐ第3の柱である市民セクター(NPO、NGO等の非営利セクター)が 充分に発達していない。社会貢献活動は企業家としての皆さんを今必要としているのである。


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(企業家倶楽部、2004年12月号に掲載)
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