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§ 効率のよい投資 自力投資

 海外のプライベートバンカー達はよく日本人の投資行動を称して「預金とギャンブルの間になにもない」と言っていた。「合理的に計算されたリスクをとる」という姿勢で調査に基づいた投資をしている個人は少ない。勉強して適切な投資判断を下すのには知識、時間、胆力まで必要とされる。毎日本業に忙しい企業家としては、個人の資産運用は他人任せか預貯金ということになりがちである。本業に投資したほうがよっぽど儲かるという自負があるのかもしれない。しかし資産の大半が自社株というのはリスク管理上からも好ましくなく是非分散化をお勧めする。

◆世界最高のブレーンの尻馬に乗ろうか

 では最小の努力で効率よく投資してリターンを得るにはどうしたらよいか。1991年私がコンサルティング会社を設立したときの答えはヘッジファンドへの投資だった。従来の株式投資との比較で代替投資と言われる。よい情報は当然お金のあるところに集まってくる。世界の超お金持ちの人たちが何十億、何百億円の単位で投資していたのが金持ちクラブのファンド、ヘッジファンドであった。世界最高のファンド・マネージャー達は成功報酬があり、規制に煩わされずに思いのまま運用ができるヘッジファンドを開設していた。当時の日本ではほとんど情報が取れなかったが、ジョージ・ソロス、ジュリアン・ロバートソン等の大御所が毎年30%、時には90%ものリターンをあげていた時代であった。
 ヘッジファンドの特徴は株式市場、あるいは債券市場の動向とは関係なく儲けようという姿勢である。マーケットにいつも買いから入ったのでは安定した運用成績が出せないのは当然で、その面からもヘッジファンドは合理的な考えであると思った。世界最高のブレーンの尻馬に乗ったほうが儲かりそうだ、昨日まで労組担当だった人が突如運用者になるような日本での運用よりは数千倍も良いと確信した。
 ところが、この尻馬に乗るのも実は楽ではない。優秀な彼らも病気、離婚、内輪もめ、専門外の分野に手を出すなどで狂うのである。通貨危機や金利の急上昇でダウンすることもある。中には自らの優秀な頭脳をもっぱら騙すのに使う不届き者さえいる。数多くのヘッジファンドのなかから良い物を選定し、定期的にコンタクトを取り、取引内容をチェックする、この尻馬戦略には金融機関などの良いお目付け役が必要になる。現在、時を経て、ヘッジファンド業界は様変わりした。情報は満ち溢れ、小口売りが盛んになり、儲けは少なくなった。でもやはり良い物はある。
 より簡単なのはヘッジファンドや先物ファンドを幾つか組み合わせた元本確保型のファンドへの投資である。円建てではないが、最悪の場合でも一流の銀行が約13年後に元本、ファンドや通貨によってはその120%、140%等を保証してくれる。しかも未だかなりの年率で回っているものがある。
 資産家を相手に商売をするプライベートバンクは実に様々なヘッジファンドや投資信託を用意しており、投資対象は株・債券・通貨・商品など様々で対象地域もまた様々である。昨今は日本株ファンドの成績が目覚しく、そのほか中国、インド、ロシア、トルコなどのファンドも随分以前から眼にする。一年で200%儲かるかと思えば、次の年に破綻したりするハイリスクなのとても万人向きとは言えないが面白い。

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◆組織的に資産運用を図る世界の富裕層

 資産運用のリターンの90%までが資産配分で決まるとさえ言われている。つまり先ず、不動産、流動資産を併せた自分の資産の全体を把握し、その内運用対象となる流動資産を動きの異なるものに、どう効果的に分散させていくかを算段して資産配分を決定するのが一番大切なことなのである。その上で、初めて具合的に商品を決めていく。勿論、数ヶ月から1年分くらいの生活費、5年以内に予想される出費は確実なもの、すぐ出せるものに入れて積極運用はしない。
 世界の富裕層はこれらの作業を組織的にやっている。大資産家の場合は自分や家族、一族の資産管理・運用を行うために設立したファミリー・オフィスがこの任にあたる。私はそうしたファミリーオフィスのネットワークの会に入っているので実に様々なニュース・レターや会議の通知が来る。投資で眼につくのは、ヘッジファンドの他、プライベート・エクィティ・ベンチャー投資・各国での商業ビルを含む不動産投資・金・石油の掘削権・絵画などであるが、よく森林へ投資しているという話も耳にする。木材を売って安定的なリターンが得られるからだそうだ。
 彼等は市場に関係なく毎年必ずそこそこの(長期金利+α)のリターンを目指す。だから多岐にわたる投資になるのであろう。しかし、まれには資産の80%程をヘッジファンドに集中させる人もいて「ヘッジファンドの中身を分散させており、今まで市場に関係なく毎年着実に儲かっているので自分はハッピーだ」と言っていた。

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◆リスクをヘッジする投資

 投資の目的はリターンをあげて資産を増やすことであるが、リスクをヘッジし資産を防衛する観点からの投資もある。スポーツ選手や芸能人が財をなしても失敗をするのは、資産防衛の姿勢が訓練されていない場合が多い。まず自分が怖れるリスクを考える。市場が下がる、インフレになる、円が暴落する、病気になる、職を失う、損害賠償を要求される、世界戦争が起きる等など。その上でそのリスクをヘッジする手段(対応策)としての投資先を考えるのである。
 インフレヘッジには資源や資源株投資。円が暴落した時の用心に外貨を持つ、それも米ドルだけでは心もとないからユーロ、豪ドルなどを混ぜる。貨幣通貨崩壊のリスクに対しては金投資と考えていく。そして全てのリスクが同時に来ることに対しては、資産を異なる、或いは反対の動きをするものに分散させることで対応する。
 家族の国籍をオースオラリア、カナダ、アメリカ、香港と分けている中国人家族を知っているが、これはリスクヘッジだけでなく、それぞれの国でのビジネスチャンスをいち早くものにする手段でもあるのだ。つまりリスクヘッジは儲けのチャンスの多様化ともなる。バブル崩壊を経て日本全体がリスク過敏症になっている。動きの異なるものに分散投資することで、合理的に計算されたリスクを果敢にとることを学びたいものである。インフレ基調になれば、それこそリスクを取らないのがリスクになる。

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◆コンピューターの活用

 自力投資もかつてほど大変ではない。その気さえあれば自分で投資の基本をマスターするのが資産防衛の確実な方法である。コンピューターソフトの進化とともに、かつては専門家のみが入手可能であった情報に誰でもアクセスできる。この特典を享受しない手はない。株式の分析術を、たとえ最もシンプルなものでも身に付ければ、証券会社からの株の勧誘にも自分なりの尺度で判断できるというものである。とてもそんな時間などないというのなら、時間のある家族に頼めばよい。子供だって中、高校生になれば、情報の分析やテクニカルな手法ぐらいすぐ身につけられよう。よい金銭教育にもなる。インセンティブとして500万円ほど貸与すれば、一段と子供の動機付けになろう。
 今、Meネット証券のオンライン画面を見ているが、実に色々な指標、チャート、分析ツールにアクセスできる。アナリストレポートも読める。オンライン証券は手数料の安さで人気を博しているが、この情報の豊かさに注目したい。その情報の一部を自分なりに使って自分の投資スタイルを確立させようではないか。日本の投資家は「最高値で買う専門家」と世界の金融業では絶好のカモ的存在であった。お隣さんが買うから、権威者が勧めるからではこの汚名の返上は出来ない。今こそ、この新しいツールを手に自分の頭と常識で判断する運用技術を身につけなければ、祖先が営々と築いた1400兆円の個人資産が危機にさらされることになる。

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(企業家倶楽部、2004年8月号に掲載)
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