セブンマネーカルチャー 掲載内容
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§ 欧米資産家に学ぶ資産防衛の哲学

◆富の蓄積の違い

お金の話をする際に、欧米と日本の違いは何かと問われれば、私はまず富の蓄積における歴史の長さの違いだと思います。アメリカは若い国と言われていますが、それでも資産家は6世代目位になっているので、ノウハウの蓄積が進んでいます。もちろんヨーロッパはもっと長くて、資産防衛も1000年を越える歴史と経験があります。スイスのプライベート・バンカーなどは5世代を経てまだ現業に従事されている方さえいます。幾世代に亘って銀行経営をしてきたということは、やはりそれなりの教育を受けてこそ可能なわけで、お金を持つカルチャーも受け継がれているのではないでしょうか。
それに比べて日本で資産が蓄積されたのは主に戦後です。もちろん戦前から持っていらっしゃった方もおられますが、戦争でやられてしまったケースが多いんですね。ですから今いわゆる資産運用というものをされている方はせいぜい2世代目というところではないでしょうか。ここがもう決定的に違います。
それと日本の資産家は「運用しない」方が結構多くて、ひとつにはよい運用先がない、或いはよく解らないということでしょうが、いいアドバイザーがあまりいない為でもあると思います。資産の運用において、日本はまだまだ駆け出しです。個人の運用だけでなく、大学や財団などもみても余りぱっとしない。それは運用の技法が下手というか、運用の本当のプロが少ないうえに、サラリーマン運用者がほとんどで保身にはしりやすいという制度上の問題があります。また個人の投資家に顔を向けた、自分の会社の稼ぎではなく顧客の利益を第一に考えるアドバイザーも余りいません。これからは独立系のFPがどんどん出てきて力をつけてほしいですね。

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◆投資家の責任

運用がうまくいかないのには、投資家にも責任があります。土地や株の売買など物が動くときはフィーを払うけれど、日本の投資家は情報やアドバイスといったソフトに対してはお金を出し渋る傾向があって、これが時には、投資をしない方がいいですよ、といった良いアドバイスをしにくくしますね。またアドバイザーに対して自分の資産を全部ディスクローズすることをしません。日本人には秘密保持のカルチャーが無くて、一端教えてしまったら皆に知られてしまうと心配するのでしょうね。でも投資家の方が資産をディスクローズしなければ、アドバイザーとしては手のうちようがありません。
また何のための投資かということがはっきりしていなかったり、どの位お金を儲けたくてそのお金で何をしたいのか、というライフデザインが明確でない場合にも、よいアドバイスはできません。バブルのとき最高値で株を買ってしまったとか、その後損切りがなかなか出来なかったのもこのあたりが関係します。私は良い投資というのは、儲かる投資というより、その人のライフデザインに適った投資だと思うのです。

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◆お金はエネルギー

欧米で今、お金をエネルギーと捉える本が多いですね。「お金とは凝集したエネルギーであり、お金を使う目的が自分の人生の意図に適っているときに、そのエネルギーが解き放たれる」等と書かれています。お金の本がほとんど哲学の本みたいな感じなのです。たとえばお金は「道具である」といいます。では何のための道具なのか?何故あなたはお金持ちになりたいのか?この問いかけに対して、「安心するため」、「より自由になる」、「幸福になる」、「自信がつく」、とかいろいろな答えが返ってきます。でも先進国では、お金を持ってしまった人は、たとえお金ができても必ずしもそうはならないことに気付いています。それならお金が貯まるのを待つのではなく、どういう経験をしたら「幸福になる」のか、「より自由になるのか」まずそっちを先にやってみなさい。そうしたらお金も自然にはいいってくるんじゃないですか。と、こういうスタンスの「お金本」が多いですね。

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◆お金ができても安心はできない

同様にお金ができたら「安心する」のかというと、これもそうではありません。資産管理の心配は勿論、料金をぼられるのではないか、騙されるのではないかと何時も疑心暗鬼の状態です。その上この頃は脅迫や誘拐の不安まであります。
インドで大変なお金持ちのホテルのオーナーとゴルフをしたんですが、その方は穴だらけのシャツを着てポンコツ車でコースに乗りつけてきました。誘拐されないためだと聞いて同情しました。「心の安寧はどうしたら得られるか」を考えたほうがよさそうです。
「ワクワクする仕事をしていれば自然とお金はやってくる」という本がベストセラーになりましたね。これも同じく「お金は随いてくる」という路線でしょう。
ところが日本人はお金持ちになったのに、「お金は後から随いて来る」という考えではなく、どちらかといえばお金のない国、お金のない人の「お金追求型」のメンタリティーをまだ維持しているような気がします。これからはもっと自分で「幸せ」を構築していかなければならないと思います。

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◆子供に残すちょうどいい額

世界中どこでも皆子供に資産をのこしたいと考えるようです。しかし資産を受け継いだ子供、特に若いうちから大金持ちになってしまった場合の弊害が様々に報告されています。それもあってなのか世界の長者番付の常連のビル・ゲイツやウォーレン・バフェットも、子供に多額のお金は残さないと言っていますね。ウォーレン・バフェットは子供に与える適切な額は「子供がなんでも出来ると思うくらい十分な額であり、しかも何もしなくてもいい程ではない額」としています。そしてそれ以外は全部寄付してしまうそうです。
お金を持つ子は、同時に独特の苦しみを背負います。他人が寄ってくるのは自分のお金のためだと思い自分に自信が持てません。何か自分で成し遂げても、「どうせお金で買ったのだろう」と言われなかなか達成感が抱けません。経済界以外で、学問、芸術、文芸などの分野で活躍したほうが幸せかもしれませんね。ファミリーの資産運用を職業とする人も沢山います。この分野では社会責任投資(SRI)も流行っており、環境問題がこれからのテーマだと思ったら、新しい環境製品を手がけるベンチャー等に投資をして世の中の動きをつくっていこうとします。フルタイムの慈善家、芸術のパトロンになるのもお金持ちでこそできることです。このようにお金を持っている事を肯定的に捉えようとする試みはこれからの日本の富裕層にも参考になります。

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◆寄付の責任・倹約の文化

日本ではお金に伴う責任について、あまり考えることがないですね。でもこれは大事なテーマです。西洋には10分の1税がありましたよね。これは旧約聖書に基づいているので、その流れをくむ宗教には全て恵まれない人に対する寄進の伝統があります。それで子供には、きっちりと寄付や社会貢献の大切さを教えます。特に富裕層は寄付を通して金銭教育や自分の信条を子供に伝えようとします。価値観の伝承ですね。その為にわざわざ財団までつくり、子供と一緒に運営をする場合もあるのですよ。また富裕層でなくても、寄付先選びやボランティア活動を家族で一緒にすることが勧められています。こうした経験を通して親子のコミュニケーションが飛躍的によくなった例なども発表されています。何故かなと考えたのですが、多分他人の幸せのために何かやるときは心の垣根が低くなるからではないでしょうか。それで反抗している子供も、他の人の幸せのためには自分の感情を一時棚上げにしてコミュニケーションをとろうとするように思えます。
名家といいますか、ある程度お金に慣れた家では、倹約家が多いように思えます。親が倹約してないと子供に伝わらない。人間費い始めたらきりが無く、何十億、何百億円あっても費ってしまいます。だから資産を長続きさせようと思ったら子供に収入内で暮らす癖をつけるのがとても大事です。子供に倹約を教え、倹約の伝統をつくるのです。しつけも厳しくやります。このあたりがホヤホヤのお金持ちと違うところです。
勿論いつも倹約ばかりしているわけではなく、美術品を購う、パーティーを催す、海外で災害があった時などは飛行機をチャーターしてお医者さんを乗せ、薬も大量に積んで独自の援助をするなど、使うときには大きく使います。

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◆ファミリー・オフィスとは

私は投資をするときには、会計士でも弁護士でも自分で雇うべきだと思います。海外物件を見るときは自分の通訳を連れて行くべきです。身銭を切ってはじめて自分の真の利益を代弁して貰えるのです。そういう面で納得できるのが、アメリカで発達したファミリー・オフィスです。ファミリー・オフィスとは、資産家やその家族、一族郎党の資産運用を行うところです。通常、弁護士、会計士、ファンドマネージャー等を雇い、この人達に資産の管理、運用や相続プラン等をまかせます。尤も全て彼等でやるわけではなく、運用とか税務でも特殊な分野のもの、たとえば海外での仕組みづくりや投資、デリバティブを使った商品などはその道のプロを雇い、自分達はファミリーの代理として監督します。丁度ホーム・ドクターのような感じです。このように資産家はまずプロを雇うプロを雇いその人たちが業界でベストな人を探してきます。代表格のロックフェラー家や、フィップス家のファミリー・オフィスには何百人とスタッフがいますが、家族のメンバーが独りで運営しているオフィスもあるんですよ。千差万別です。
ファミリー・オフィスをつくるのは50億円くらいの資産がある人達です。アメリカだけで3000から5000はあります。鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーのパートナーであったヘンリー・フィップスは株式を売却して得た5000万ドル(約55億円)を元にファミリー・オフィスを設立しプロに運用をまかせました。1907年のことです。その資産が現在では何千億円にもなり、また運用成績がよいので他の資産家も資産を預けています。ブッシュ元大統領なども顧客だったそうです。

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◆ファミリー・オフィスが果たす役割

私のある友人はお小遣いは両親からではなく、ファミリー・オフィスから貰っていたそうです。オフィスによっては、資産管理だけでなく日本の家訓に似た、ミッションステートメントの作成、家族のニュースレターの編集もします。家族のアイデンティティを維持し、結束を固めることを狙っての試みです。そして次世代教育も行います。私の知人のファミリー・オフィスでは、6歳から300万円が与えられ、株式や債券投資を習うののが決まりになっているそうです。知識の習得ということもあるでしょうけれど、それよりも幼い時から家族の資産運用に貢献するという姿勢を学ぶのだと思います。そして16歳になるとファミリーの投資会議への出席が認められます。投資会議は学校の授業より大切だということで、学校は休むようにいわれたそうです。そうやって知らない間に銀行との交渉の仕方など全部経験していくのですね。
ヨーロッパはそこまで組織的には資産管理をしないようですが、米国風のファミリー・オフィスを設立する人たちも最近増えてきました。私はずっと日本の土壌にあったファミリー・オフィスを考えてきましたが、ともかく世界の資産家がある程度連携プレイをしているなかで日本は外れていますね。いずれは日本の資産家もアラブに子弟を武者修行にだす、そんなことがあってもいいのではないでしょうか。

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(セブンマネーカルチャー、2004年7月号「1億円からの資産防衛術」に掲載)
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