【 視点を変えていくこと 】 2002年12月号掲載 (インタビュー記事) 掲載紙コピー 穏やかな口調、おっとりした物腰、そしてなによりもその生き生きとした表情・・・・・・。外国特派員助手、同時通訳、企業の買収、会社の設立と経営。多くのキャリアと実績を持ち、「覚えきれないほどの仕事をしてきた」と語る榊原節子さん。その一方で、母であり、妻でもあった。 「私と同世代の女性は、一般的に外に出て働く人がいなかったんですね。結婚をしたら、仕事をしないのが前提。もしやるとしても、家事はきちんとやったうえで、というのが条件でしたから。」 忙しい生活だったという。「本来はのんびりした性格なんですよ」と笑う。そんななかで榊原さんが実践してきたことのひとつが早起きだ。「以前は朝5時には起きていました。そこで、家事や子育てからも開放された、自分と向き合う時間を作るんです。原稿の執筆なども朝です。仕事のいいアイデアが浮かぶのも朝が多いですね」 どんなに忙しくても「自分と向き合う時間を作ること」。それがゆとりある生活につながる。一方で、榊原さんは最近の時の流れ、日本人の生活スタイルについてはいくつかの提言をしてくれた。 「以前、仕事でフィジーから来た方を案内したことがあったんですが、立ち止まって子供に話しかけたり、こちらの計画どおりに動いてくれなかったことがあったんです。でも、瞬間、瞬間をとてもエンジョイしていた。日本とは流れている時間が違うんですね。日本のほうがGNPは高いけれど、どちらが幸せなんだろうと考えさせられました。日本人は特に、時間に追われているでしょう?」 生活のゆとり、幸せ、それらはすべて視点を変えることが大切、と榊原さんは言う。ときには未来を見据えて、そこからの自分の位置を確認する視点も必要になる。それを榊原さんは、資産運用を例にとって語ってくれている。 「お金に対する考え方でも、10年、100年単位の先を見て資産運用を考えます。何代も続く資産家は、資産の継続を『家族文化』の継承という形で受け継いでいます。家族文化の中には先祖が大事にしてきた価値観や心根も含まれます」 今、この瞬間、この人生の時間を私たちは生きているが、その考え方や生き方は確実に次の世代へとつながっていく。個人の数分単位の時間と、人生の時間、さらに一族としての時間、ヒトとしての時間・・・・・・ひとりの人間にはさまざまな時の流れが交錯しているのだ。 「人間の動物的な進化には何千年何万年の時がかかっています。でも、すべてのスピードが急激に早くなりつつある現代で、動物としての人間はそんなに器用に適応できるのでしょうか。歴史書を紐解けば、人間の営みはほとんど古代から変わらず、流れている時もまた変わらないはずなのに」 携帯電話、インターネット、高速の移動手段・・・・・・。情報化社会の波のなかで、時のスピードは早くなるばかりだ。この日ショーメの時計をつけ、それまで華やかだった榊原さんの表情が、すこしだけ心配そうに曇った。 |