金融財政事情 (KINZAI WEEKLY)
『お金持ちの投資行動・金銭感覚』 連載内容
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〜 タイトル一覧 〜

     【 なぜ資産は三代ともたないのか 】  2002年02月18日掲載
自分で築いた資産を子孫に残したいというのはごく自然な感情だと思う。それで相続対策をあれこれ試みる。しかしある米国の統計によると、資産家の六十五%は第二世代目で資産をなくし、なんと資産家の九十%が第三世代目でその富を使い果たしてしまうという。驚いたことに同様の統計が英国でもそして相続税のないオーストラリアでもでている。ということは身代が三代ともたないのは、どうも相続税のためではないようだ。上手に継承プランをたてて次世代にお金を残す人も必ずしも成功しない。やはり米国の数字で恐縮だが、富裕層の四十六%は成人して独立した子供や孫に、毎年少なくとも一万五千ドルを与えているという。節税を考慮した継承プランである。しかし他方で、こうした金銭援助を受けた人のほうが、蓄財額が少ないという意外な結果もでているのである。なぜ富の継承はうまくいかないのだろう。
いくらお金が物理的に継承されたとしても、受け取り手に健全な金銭感覚を育ませない限り、お金を扱う術を教えない限り、そしてもっと基本的には価値感を伝えない限り、どうもお金は消失する運命にあるようだ。考えてみれば当たりまえのことで、資産というと私たちはどうしても物理的な資産に目がいきがちだが、その物理的資産を生かすのも殺すのも持主次第である。この人的資産のほうが不良資産ではどうしようもない。
専門家は頭をひねって相続対策案を練る。勿論それ自体に意味がないというのではない。しかし、テクニカルな面だけでは、継承はうまくいかないのである。伝統芸能の世界を考えていただければお解りいただけると思うが、本当に子供のうちから体で芸を教え、同時にその背後にある価値感の継承がなされるのである。それで歌舞伎でも茶道でも次世代への受け渡しが時間をかけて行われる。資産に関しても同じではないだろうか。
日本ではお金に関して子供に早くから教えるなんてーーとか、お金は汚いという、時代に則していない考えがまだ横行している。しかし、子供のときから小遣いを通してのマネーマネージメント術、定期的な貯蓄の癖付け、節約のやり方(欲望のコントロール)、予算という楔をはめること、リスクコントロールされた上手な運用の仕方、などをきちんと教えておくべきである。こうした教育が蓄財を可能にし、また資産の継承を成功させる早道でもあるように思う。
会社の経営同様、資産を継承させるには、ミッションステートメントを作ることが有用である。自分たちはどのような苦労をして財をなしたのか、そのお金で何をしたいのか、子供達には何をして欲しいのか、ファミリーの資産の継承を考えるなら末代までも意識したメッッセージを残す事が重要となろう。それもできるだけ夫婦、子供達、関係者の希望を集約したかたちのほうが、長続きがする。夫々の家族には家族文化といったものがある。相続プランも資産運用プランもその家族文化に合致したものであるべきだ。資産家向けのサービス提供者は金銭面だけでなくこのファミリーの価値の継承の部分にまで関与することが要求されるのではないだろうか。

     【 資産家は誰を信用しているか 】  2002年02月25日掲載
ロンドンで行われたプライベートバンクの国際会議で講師をした時聞かれた。一体日本の資産家たちはお金に関して誰を信頼しているのかと。うーんと唸った。私は資産家から、又は元資産家から、金融機関の悪口を聞かされ続けてきた。実際彼等の銀行に対する恨みつらみは相当なものだ。慇懃無礼で、いざとなると逃げる性向も評判が悪い。証券会社も相変わらず自社の利益中心であるし、朝令暮改の代表選手として信用面でもぱっとしない。会計士、税理士も変額保険などでクライアントに損をさせてしまっており、決して無傷ではない。資産家の税務申告を請け負う関係上、収入や資産の情報を知り得る立場にいるのが強みだ。しかし投資に関する知識に欠け、また海外の事情に疎いのが今いち頼りない。
日本の資産家が投資を含めたお金の問題を一体誰に相談しているかという調査をすると非常に面白いのではないかと思う。というのも実に千差万別だと思われるからである。よくあるのがごく個人的なアドバイザーというケースだ。むかし証券会社に勤めていたが今は別の仕事をしている同級生。仕事の関係で知り合った商社マン。事業会社の財務役員で同じゴルフクラブの仲間とか、実に様々である。実質占い師が投資アドバイザーになっている人もいる。これらの友人的アドバイザーは人物的には信頼できるかもしれないが、とてもトータルな金融知識があるとは思えない。しかしそれでも頼らざるを得ないのである。
海外のプライベートバンキイングがそうした日本に乗り込んできている。しかしどの程度成功を収めているであろうか。スイス型のお任せタイプの運用には日本人はなかなか踏み切れないのではないだろうか。ファンドを使った運用の方が馴染み易い。外資系はどことなくカッコはいいが、何かあった時素早く逃げるのではという不安感がある。では国内の金融機関のプライベートバンキングはというと、プライベートバンカーに必要とされる訓練を受けているかどうかも疑わしい上、社員の移動も多く、口の軽さからも敬遠される。
では一体どんなサービスを資産家は望んでいるのであろうか。金融資産のみならず、不動産も保険も相続対策も含むトータルな資産管理であり、投資もアドバイスに限らずモニタリングも、記帳もしてくれるところではないかと思う。ここまでくるととてもプライベートバンキングでは対応できなくなる。欧米の資産家は自分を含めたファミリーの資産管理をするため、ファミリーオフィスをつくる。会計士や弁護士を、時にはファンドマネージャーも雇って自分達だけのために資産の管理や運用をやらせる。米国だけで5000位そのようなオフィスがある。プライベートバンキングでも確かに個別の対応はしてくれるが、やはり銀行の方針や利益に左右さる。それならば、自分の抱える問題を専門家を雇って解決してしまおうというスタンスである。このような動きに対応して、銀行や、証券会社の中には自らファミリーオフィスを作って顧客を募るところもある。日本でも注目していきたいサービスである。

     【 ファミリーオフィスによる資産管理・運用 】  2002年03月04日掲載
前回はファミリーオフィスのご紹介をした。資産家の資産管理をするファミリーオフィスは、米国だけでなくヨーロッパでもその歴史は古く、かつ昨今はホットトピックス的存在である。唯一日本においてはなかなか目立った動きが出てこない。私はかれこれ九年前から研究をしているのだが、やっと去年、同志とファミリーオフィス研究会を発足させ、セミナーの開催にこぎつけたような状況だ。
ファミリーオフィスは楽して資産管理する賢いやり方だと思う。一元的に資産管理、運用をやらせればチェックするのも楽である。さらに資産家自身の利益のためにのみ働いてくれる会計士、弁護士やファンドマネージャーを自ら雇うことで、ニーズに合った運用や継承をプロの手により図る賢いやり方だと思う。いわば資産家はファミリーオフィスをもつことでお金に関する総合的な実行部隊を手に入れることになる。
ファミリーオフィスの機能は千差万別である。アメリカでは資産管理が中心だが、ヨーロッパではまだ同族経営をやっているファミリーが多い為だろうか、ファミリーオフィスがファミリーのビジネスに関与しているケースがある。例えば同族経営の会社に対して、株主間の意見の調整機能を発揮する。家族の中でも経営に加わっている株主と加わっていない株主では利害が異なるからだ。またファミリービジネスの後継者教育に関与したりもする。これからの日本版ファミリーオフィスを考える上で参考になる点が多かった。
資産管理に重点をおいたアメリカのファミリーオフィスの中でも資産運用を専門としているところもあれば、税務処理を得意としているところもある。継承の問題に熱心なところも多い。継承にはお金の継承と価値の継承がある。その両方が上手くいかないとファミリーは永続しない。例えば、カーティス家のファミリーオフィスでは六歳になると子供にお金を渡して証券会社に口座を開設させ、オフィスの指導のもと、株式投資を体験させてリスクを肌で教えている。相続対策にはこのような金銭教育が欠かせないからである。
ファミリーオフィスはまた価値観、家族文化の継承にも関与する。家族のアイデンティティー確立のために、家族誌の編纂、家族のニュースレターの発行、定期的な家族会の開催を企画する。ファミリーの種々の雑用まで引き受けるところも多い。例えば旅行の手配をしたり、劇場の切符をおさえたりするのである。私の知人も子供の頃の小遣いはいつもファミリーオフィスから貰っていたという。
では一体どの程度の金持ちがファミリーオフィスを設けるのであろうか。大体資産規模で五千万ドルはないと経済的に合わないといわれるが、なかには幾つかのファミリーが集まって共同ファミリーオフィスを構えているところもあり、総資産規模、一ファミリー当りの資産額もまちまちである。最近では銀行や証券会社もまた同様のサービスを提供し始めている。

     【 カルチャーとしての秘密保持 】  2002年03月11日掲載
「日本には秘密保持のカルチャーがない」とある証券会社に勤めるドイツ人が断言した。
その証券会社で自分の口座を開いたら翌日には会社の同僚皆が知っていたと彼は言い張る。
スイスのプライベートバンクも日本での展開ではこの点で苦労するらしい。「秘密保持に関する限り日本人は全く信頼できない」と彼等は言う。とくに危ないのが、レストラントとか一杯飲み屋、それにゴルフ場だそうだ。オフィスと違い、ついリラックスしてふらっと顧客について話してしまう。相手が悪いとそれがすぐ当人の知るところとなる。声が大きいと周りの人にも聞こえてしまい、更にリスクは高まる。実際私のところにも「あの銀行の人レストランでこんなことを言っていたよ、お客のこと実名を使って大声でしゃべったりしていいのかネー」というたれこみがあった。
資産家は秘密保持にこだわる。税金とかその他の理由で秘密にする必要がある場合は勿論、なんら秘密にする必要がない場合でも、自分のプライベートな情報が漏れるのを好まない。海外の資産家の場合はもっと徹底している。私の知っているあるブランドのオーナーは一切写真を撮らせない。プライバシーを守ることと同時に誘拐対策でもある。ある著名な資産家も絶対に新聞にでない、なんでもひっそりやるのをモットーとしている。だからチャリティーも匿名でする。影響力を行使したいときは裏から手を回す。土地を買う時は海外のペーパーカンパニーを通して買うし、自分はその会社の株主や取締役にもならない、と徹底している。有名人の場合はこうした算段がマスコミ対策にもなるし、第一実名が出なければ値をつりあげられる心配もない。
他方金持ちであることを誇示する向きの人もいる。お金が出来たての頃は嬉しいし、周りの人にも知って貰いたい。しかしその嬉しさを通り越してみるとすと、金持ちであるのを知られたり、そして有名になればなるほど、メリットよりはデメリットの方が多くなるのだろう。多分それで秘密保持に熱心になるのではないだろうか。
こういう人たちにとってプライベートバンクの秘密保持はアピールするだろう。なにも隠すことはなくても番号口座にしておけば、行員達に噂されることもない。特にスイスには秘密保持のカルチャーがある。以前はスイスのプライベートバンクは一切宣伝もせず、行員たちに名刺すら持たせなかったという。今では新聞宣伝までするから隔世の感があるが、それでもスイスには顧客に関する秘密を開示すれば法律により刑事罰の対象となる確かな歯止めがある。秘密保持に関する命令を初めて出した人はなんとルイ十三世である。それ以来培ってきたカルチャーがある。実際ある銀行では毎日業務を終えた後、屑かごのごみまで全てシュレッダーにかけ、それを更に焼却処分にするとの事。私もスイスのプライベートバンカーにカマをかけてみたことがあるが、顧客のことについても、顧客かどうかさも言わなかった。
しかし時代は変わった。現在スイスは他のタックスヘイブン諸国共々マネーロンダリングの温床として厳しい攻撃に曝されている。テロリストの資金源を根絶することが大きな命題となっている昨今、秘密保持とのバランスをどのように取っていくことになるのであろうか。今後の展開に注目したい。

     【 プライベートバンカーの条件 】  2002年03月18日掲載
ある有名な米国の外科医をお招きした時のことだった。芸術品にも近い日本の林檎をみて、「おいしいりんご一切れとチーズは食後のブランデーにピッタリ」と教えてくれた。 たまたま我が家の冷蔵庫にはありふれた雪印のプロセスチーズしかなかった。「まあイィカ」と思ってそれ出してみたら案の定「このチーズには全くキャラクターがない」と言下に言われてしまった。
あるプライベートバンカーがこぼした。「日本人のバンカーたちは全くキャラクターがないからナー」芸術にも無知だし、どこを突っついても自分の意見らしきものが一向に出てこないという。教養はさておき、たしかに日本の企業カルチャーには個性を排除する空気がある。あの人は「クセがある」というのはけっして褒め言葉ではない。しかし今からの社会では「個」がキーワードだ。
チーズには熟成した独特の個性というものがある。キャラクターである。だけど熱処理をして乳酸菌や酵素の働きを止めてしまったプロセスチーズはその個性、夫々の「らしさ」を失ってしまう。キャラクターが失われクセがなくなってしまう。人間も同じかもしれない。今までの長いサラリーマン生活や、行政の保護という熱処理にあってクローン化してきてしまったのかもしれない。しかしそんなキャラクターのない人間なら一度ならともかく、二度会ったってしょうがない、付き合ってもしょうがないということになる。特に自身キャラクター豊かなオーナー経営者はそう言う。プロセスチーズ的な人は事務処理はできても、プライベートバンカーとして、息の長いお付き合いをすることも、ましてや新規に顧客を獲得することなどはとても望めない。キャラクターは熟成すれば人間力となって人を惹きつける。それは国境を越え、時には言語すら超えるように思う。というのもあまり英語が話せない日本人でも外国人達の尊敬を一身に集めるのを目撃したことがある。その人の英語のレベルは[You Good, Me Bad]程度だった。でも目の動きとかジェスチャーで、もしかしたら、ただ座っているだけで人間力が発揮されたのではないか。
私は最近英国の情報サービス会社から頼まれて、世界の金融機関の各部門別、各地域別のランキング審査員になった。あらかじめ委員会が選んだ候補企業の中からトップスリーを選ぶのである。カストディー、リテール、資産運用、マルチチャンネル、CRM、カードなど、各サービス分野での世界各地域における評価づけをこつこつしていて、ふと気付いた。日本企業が、銀行も含め一社もはいっていない。かつては世界に大手を振って進出した日本企業もサービスの実態をみれば、優等賞は全く貰えていない。「このサービスをやらせれば世界一」というものがない。やはり金融機関自身にもキャラクターが求められているのではないだろうか。いやそれだけではない。日本自体、いつからとはなしにキャラクターのない、ぼやけた存在になってきてしまってはいないだろうか。今一度自らの根源を確認し、日本が世界の文明にどういう貢献ができるのか、改めて自らのキャラクターを再認識することが必要であると思う。

     【 インドの大富豪 】  2002年03月25日掲載
インド自体は金持ちの国ではないが、何せ十億強の人口を有するので、実は世界でも有数の金持ちが多くいる国なのである。またインドにはケタ違いの金持ちもいる。そんな一人、一流ホテルの共同オーナーのK氏からゴルフに招待された。遺跡が点在し、その傍で孔雀が優美に羽根を広げてる美しいゴルフ場だった。K氏は七十歳は過ぎているであろうか、背の高い堂々とした紳士である。しかしゴルフ場にあらわれたその服装を見てびっくりした。古びた、背中にいくつも穴のあいたゴルフウエアーを着ているのである。乗りつけてきた車も、運転手付だったが、おんぼろの小型車だ。一緒にいた人が、「金持ちらしくすると、この国では狙われるからね」といった。金持ちも楽ではないと思った。
夜はK氏の自宅に招かれたが、米国でも見かけたことがないほどの大邸宅で、ガードマンたちが銃を片手に忙しく警備にあたっていた。迎えに出たK氏は今度は綺麗な身なりだった。絵や調度品の落ちついた贅沢さがK氏の人となりを物語っている。K氏夫人も含めた八人の夕食会での会話が振るっていた。まずその中の一人が自らの運命を記した古文書が収められたところに行った時の話をした。自分からは何一つ言っていないのに両親の名も、自分の職歴も言い当て、これから誰と結婚するかまで知っていたという。日本では「アガスティアの葉」という本で紹介されているが、このような、訪れる人の一生を記した古文書の集積所は、インド内に五.六箇所あるらしい。
K氏の妹夫妻は毎年瞑想ごもりをするし、修行をしないと体の調子が悪いと言う。さすが世界一の宗教輸出国である。精神的な話しが多い。そして、ここで聞いた話で一番面白かったのが、インドの伝統医学として知られるアーユルヴェーダの療法、パンチャカルマの話である。インドでは病気は体に発生する毒素により起こると考えられている。そしてその毒素を除去するのがこのパンチャカルマの療法である。これを行う医師はインドの伝統医学アーユリヴェーダを修めるので、かなりの精神修行や占星術の知識を有する。そのトータルな知識を駆使したこのパンチャカルマの療法を受ければ各種の慢性病が治り、脳溢血の後遺症で半身不随になった人でも体が動くようになるという。健康な人なら五―十歳若返り効果が期待できるらしい。初めて聞く話だった。
私達皆、そして特にシニアになった資産家は健康に多大な関心がある。実際資産のコンサルティングをしていてもかなりの時間は健康のことを話題にしているように思う。克明な便の話、スイスで若返りの注射をしてもらう話など色とりどりである。また資産家、とくに経営者は絶えず重要な判断をせまられる。そして問題の性格上、誰にも相談できず一人悩むことも多い。その為か経営者にはスーパーパワーを信じる人が多い。いいかえれば信じざるを得ないほど、辛い孤独な決断を日々迫られているともいえる。ナポレオンにもお抱えの占星術師がいたという。日本のさる大経済人にもお抱えの占い師がいた。
そう云えばインドの資産家のK氏のパーティーでの話題もスーパーパワーと健康の話に終始していたな、と改めて納得した。

     【 ヘッジファンドマネジャー 】  2002年04月01日掲載
ヘッジファンドはよく金持ちクラブといわれる。億、あるいは十億単位での投資となるので、資産家でないと投資家として仲間に入れて貰えなかったからである。しかしこの頃はプライベートバンクなどが小口売りをしてくれるし、ファンド・オブ・ファンズもあるので千万単位あるいはそれ以下での投資も可能となった。
ヘッジファンドマネージャも含め数多くのマネージャーにインタビューしたが実にカラフルな人が多かった。ハンサムな元ボクサー、元宇宙工学のエリートエンジニア、哲学者を標榜する人。彼等がなぜヘッジファンドを開設したがるかといえば、第一に運用がうまくいけば莫大な成功報酬が貰えるというインセンティブのためである。同時に運用規制が少ない事も自由に運用の腕をふるうのには有利なのである。煩い上司がいないのもいい。それで最も優秀なファンドマネージャーは次々とヘッジファンドへと移ってしまう。その中にはモラルの高くないマネージャーも混じっているので詐欺事件なども後を絶たない。しかし、サラレーマンの身ではファンドマネージャーは務まらない。この点は投資の教祖的存在であるウォレン・バフェットも指摘している。組織の人間、組織の理論とファンドマネージャーは相容れない存在なのである。
ファンドマネージャーの投資手法は実に様々である。徹底した体験主義の人は、レストランチェーンを担当すれば一日中食べ歩いて株式の選択をする。職業病というべきだろう。ものすごい体重になっていたそうだ。反対に、会社訪問など全く行わず全てモデルによって株式の選択や売買のタイミングを決定するクオンツ信奉者もいる。大抵有名大学の博士号を持っていて、学会での発表のように数式をつかって説明してくれる。しかしいくら頭がよくても運用成績がよいとは限らない。反対に、なんの変哲もないごく常識的な手法でも十年以上、平均で年二十%近い運用をし続ける人もいる。
ファンドマネ-ジャーの性格と投資手法にも関連性がありそうだ。何故か、買い持ちが得意な人もいれば、売り持ちが得意な人もいる。また自分は性格的にマーケットニュートラル型の手法が合っていると明言する人もいる。
しかし、いずれの場合でも、十年近く各ファンドの運用成績を追っていると幾つかの共通要因があるのに気付く。まず、市場に合わなくなったと自分の投資手法をころころ変える。こんな近視眼的なファンドマネージャーとは早々と縁を切った方がいいし、すくなくともデューデリジェンスをやり直す事。また、離婚とかチームメンバーの揉め事があると不思議と即成績に影響がでてくる。そして、なにより成績がうなぎのぼりに良くなった時の態度が問題となる。どうしても、特に若いファンドマネージャーは、よい成績が続くと自分は何でも出来ると、神に近づいたような気分になるらしい。ギリシャ語でヒブリスという。これに犯された人は突如米国株の運用から、日本株にも手をだしたり、自分の投資手法とは別の手法にも手を広げたりし結局は失敗する。一時的に良い成績を出すファンドは結構多いが、毎年コンスタントに良い成績をだすファンドマネージャーはごく限られている。

     【 1000年後の社会を見通してみよう 】  2002年04月08日掲載
あるエピソードをご紹介しよう。
これは第二次世界大戦中に、いかにしてロスチャイルド家がナチスからその資産を守ったかを示した面白い事例である。ロスチャイルドはヨーロッパ各国に進出していたが、その一つオーストリアロスチャイルド商会の当主ルイス・ロスチャイルドがゲシュタポに捕らええられた。彼の身柄と交換にチェコスロバキアでロスチャイルド家が所有するヴィトコヴィッツ製鉄所をよこせといわれる。しかしロスチャイルド家はこれを断る。
なぜならこのような事態を予想して、ロスチャイルドはあらかじめこの製鉄所をイギリスの保険会社に買収させておいたからである。従って、ナチは製鉄所を占領したものの、国際法上手出しができなかった。戦後、チコスロバキアが共産化し、製鉄所は国有化される。しかし、イギリス議会がチェコスロバキアに対する買収請求法を成立させたため、(勿論そうなるようにロスチャイルドが働きかけたのだろうが) 莫大な賠償金がロスチャイルド家に支払われ続けたという。ロスチャイルドは、チェコスロバキアの製鉄所の株式名義を当初はスイスにしたようだが、最終的にはイギリスの会社に買わせた点が興味深い。というのもイギリスは当時まだ権勢を誇っていたので、大国の政治力、軍事力をあてにしての挙と思われる。ロスチャイルドの先見性としたたかさが感じられる話である。
翻って現在の日本でどれだけの企業がこのような長期に亘る先見性をもった戦略をたてているであろうか。ある著名なエコノミストに十年後、百年後の日本社会の見通しを聞いてみた。三年以上先のことは言えないという。たしかに日本社会は激動期にあって三年先どころか、三ヶ月先ですら見通せない時代に我々はいる。特に日本国自体の航海図がまったく描けていない昨今、国際競争に生き残るための先見性をもつことは非常に難しい。そういう時代に、私の知人で米国チェース信託の元常務であった弁護士が「紀元三千年の子供たちに何を伝えられえるか」という、とんでもないフォーラムを一九九九年日本の箱根で開催した。千年先をみこしての議論である。千年前の日本はなんと平安時代である。平安時代だれが今日の社会を予見したであろう。
物質文明的には疑いもなくそうであるが、世の中は本当に全て変わってしまったのだろうか。感性の部分ではそれほど人間は変わっていないように思えるのだが。だからといって紀元三千年の社会の姿を描けといわれても戸惑ってしまう。ではどうするか。本来あるべき姿、人間としてこうあるべきという見方を追い求めて考えるほかない。これが箱根会議の意図でもあったらしい。そして同時に紀元三千年から現在をみてみるという面白い試みもなされたとその常務はいう。日本人には桁違いに思える発想である。たしかに未来から現在をみるというのはた面白い発想ではないだろうか。紀元三千年の人たちは現在の金融機関をどう評価するだろうか、そして果たして紀元三千年、日本の金融機関はどうなっているのだろう。望ましい金融機関の姿とは?一度は考えてみてよいのではないだろうか。

     【 海外の節税オタク達 】  2002年04月15日掲載
海外の資産家は古くは中世より、税務プランを駆使して節税をはかり、また資産を守ろうとしてきた。例えばトラストなどはその歴史を十二世紀に遡る。長子相続制下のイギリスで、男子がいない場合でも国王に土地を没収されない手段として、あるいは長子以外の子弟への遺産相続の手段として用いられた税務プランである。米国でも同族経営の株式を早い段階からトラストに委譲してしまい、大企業に成長した現在でもいまだにファミリー企業として存続し続けているところもある。トラストは英米法下の国々で発達したが、最近は大陸法下の国々でも使うようになってきているというから、日本での展開も期待できよう。
勿論、資産家のみならず法人も又節税に熱心だ。私が携わった企業買収の案件でも、税務プランは重要な要素であった。米国の企業をオランダの持ち株会社を通して買い、再上場時のキャピタルゲイン税の節約をはかるなどの提案は、海外の弁護士事務所が得意とするところである。節税案でも海外を、つまり自国の法律の及ばないところを使うプランが多いのが日本と違うところだろうか。各国の税法の違いを利用する一方、反対に租税条約の利点を生かしたスキームなど様々ある。こうしたことに長けた節税弁護士を何人も使って節税にいそしむ企業も多い。実際に税務プラン実行のために本社の所在地を簡単に変えてしまう大企業さえあるくらいだ。こうした節税振りをみていると日本のQC活動による節約などではとても太刀打ちできないように思う。
個人対象であれ、法人対象であれ、あれでもかこれでもかと新たな節税案が登場する。節税案に必須な柔軟な発想には、柔軟な頭が必要だが、同時に法律であれ、金融商品であれ、ものの本質をおさえておかないと柔軟性はでてこない。やっている本人も掴みきれないのではと思う位複雑な節税案にもお目にかかったが、最近は金融商品を利用したプランが多い。資産全体を保険で包むなどの提案は十年まえに聞いたときは自分の耳を疑ったものだ。しかし考えてみれば、保険を、トラストや、債券、投資信託のように資産の受け皿として考えることもできるわけだ。
随分多くの海外の節税弁護士、会計士と会ったが、共通しているのは、難しい節税案や相続案が、根っから好きだという点だ。アメリカ人もイギリス人もスイス人も皆同じである。「節税おたく」といってよいほどである。リーガルパッドやレポート用紙を手に、図を書き、矢印を引き、熱心に説明してくれる。食事時も忘れ、私の提案にも食いつくような眼差しをむけてくる。かくも情熱的に節税が追求される一因は、政府は個人の基本的な権利を阻害するものという考えからきているのかもしれない。

     【 基本は長期投資である 】  2002年04月22日掲載
欧米資産家の投資の特徴の一つが長期投資の姿勢である。プライベートバンクも少なくとも五十年先、百年先に資産が目減りしていないのを目標にかかげる。有力なファミリーとなるとどうも樹を育てる感覚で投資するらしい。たしかに、目まぐるしく株の売買を重ねるのは税金や手数料ばかり掛かり大きくは儲けられない。
資産家向けの投資アドバイザーはこぞって長期投資のメリットを力説する。四半期ごとの成績を気にしなくてすめばそれだけ安定した投資を出来るというものである。数年にわたる調査の結果、統計上からも長期投資の優位性を示すデータがでている。実際欧米の資産家達は優良株を買って長く持つ。かなり以前に仕込んだ株があるので含み益は大きい。そして短期的に利益を取りに行く時も、持株は売却せず、融資を受けてポートフォリオのアロケーションを変えたりしている。又通貨に関しても、オーバーレイをして為替損のヘッジをはかり、或いは為替益を取りにいく。資産家がベンチャーで大儲けするのは十年二十年と長期的にかまえているからで、それ今はITだ、次はバイオだというスタンスではない。
長期に保有するなら、株価が安い時、誰も買わないような時に勇気をだして買うに限る。これが大きく儲けるコツである。。日本人は製造業の場合は長期ビジョンにたつのに、金融投資では短期になってしまう嫌いがある。短期に儲けようとするので、どうしても値上がり始めた株、人気が出た株に手を出す事になりそれだけリスクも大きくなる。
長期投資の代表格がウォレン・バフェットである。バフェットは株式の選択にあたっても、一連の会社買収にあたっても、よい経営陣がいること、自分の良く知っている業界である事に加えて、企業の本来的価値に注目し、それ以下の価格で購入し長く保有する。一般的に、株価は投資家が欲張りになったり、恐怖心をもつ事で本来的価値と大きく遊離する。バフェットはこのような側面をもつ株価の短期的予測は不可能とし、彼自身の本来的価値を基準とした投資に徹している。そのようにして選択した株式のいくつかに対しては永久保有の宣言をし、最低でも二十年は持ち続けるというどっしりした投資を実践している。実際株式市場は一定のリズムで上がったり下がったりするのではなく、上がるときは一挙に上がる。その時期を逃がさない唯一確かな方法は長期投資に徹する事と言われている。
一方、日本では長期投資を旨とすべき投資信託ですら、成績がよいと証券会社のセールスマンがこぞって手数料稼ぎのために他への乗り換えを勧めたりする。このようなことが罷り通るなら、折角出てきた投資信託投資の芽も潰されてしまうだろう。