【 プライベートバンカーの条件 】 2002年03月18日掲載
ある有名な米国の外科医をお招きした時のことだった。芸術品にも近い日本の林檎をみて、「おいしいりんご一切れとチーズは食後のブランデーにピッタリ」と教えてくれた。
たまたま我が家の冷蔵庫にはありふれた雪印のプロセスチーズしかなかった。「まあイィカ」と思ってそれ出してみたら案の定「このチーズには全くキャラクターがない」と言下に言われてしまった。
あるプライベートバンカーがこぼした。「日本人のバンカーたちは全くキャラクターがないからナー」芸術にも無知だし、どこを突っついても自分の意見らしきものが一向に出てこないという。教養はさておき、たしかに日本の企業カルチャーには個性を排除する空気がある。あの人は「クセがある」というのはけっして褒め言葉ではない。しかし今からの社会では「個」がキーワードだ。
チーズには熟成した独特の個性というものがある。キャラクターである。だけど熱処理をして乳酸菌や酵素の働きを止めてしまったプロセスチーズはその個性、夫々の「らしさ」を失ってしまう。キャラクターが失われクセがなくなってしまう。人間も同じかもしれない。今までの長いサラリーマン生活や、行政の保護という熱処理にあってクローン化してきてしまったのかもしれない。しかしそんなキャラクターのない人間なら一度ならともかく、二度会ったってしょうがない、付き合ってもしょうがないということになる。特に自身キャラクター豊かなオーナー経営者はそう言う。プロセスチーズ的な人は事務処理はできても、プライベートバンカーとして、息の長いお付き合いをすることも、ましてや新規に顧客を獲得することなどはとても望めない。キャラクターは熟成すれば人間力となって人を惹きつける。それは国境を越え、時には言語すら超えるように思う。というのもあまり英語が話せない日本人でも外国人達の尊敬を一身に集めるのを目撃したことがある。その人の英語のレベルは[You Good, Me Bad]程度だった。でも目の動きとかジェスチャーで、もしかしたら、ただ座っているだけで人間力が発揮されたのではないか。
私は最近英国の情報サービス会社から頼まれて、世界の金融機関の各部門別、各地域別のランキング審査員になった。あらかじめ委員会が選んだ候補企業の中からトップスリーを選ぶのである。カストディー、リテール、資産運用、マルチチャンネル、CRM、カードなど、各サービス分野での世界各地域における評価づけをこつこつしていて、ふと気付いた。日本企業が、銀行も含め一社もはいっていない。かつては世界に大手を振って進出した日本企業もサービスの実態をみれば、優等賞は全く貰えていない。「このサービスをやらせれば世界一」というものがない。やはり金融機関自身にもキャラクターが求められているのではないだろうか。いやそれだけではない。日本自体、いつからとはなしにキャラクターのない、ぼやけた存在になってきてしまってはいないだろうか。今一度自らの根源を確認し、日本が世界の文明にどういう貢献ができるのか、改めて自らのキャラクターを再認識することが必要であると思う。
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