アイディアルファミリー 掲載記事
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【金銭教育は最高の自立教育。子どもに小遣いを与える時から始めよう】      2002年05月号掲載記事

著者インタビュー 『金銭教育―小遣いから資産家の二世教育まで』

<自己責任を教える>

――欧米と日本の金銭教育には、大きな開きがあるようですが。

 金銭教育は生き方の提示です。ユダヤ人は生き残りをかけて、聖典タルムードで古くから子どもに自立をきちんと教えています。欧米の金銭教育はかなり具体的で、例えばアメリカでは小学校5、6年から株式投資だけでなく、ビジネスの起こし方まで教えているところもあります。
 それに比べて日本は、小遣いに対する家庭の方針がしっかりしておらず、子どもに妥協しやすい。しかも、お金について話すことは「はしたない」という意識が強いですね。お金自体は、汚くもないし、きれいでもないのです。要は使い方次第ですから。夢を実現する手段として大事なものですから、子どもの頃から良い癖をつけさせることが大切です。その意味で、小遣いは子どもにとってマネー・マネジメント学習の第一歩です。
 子どもへの小遣いは現金支給で、定期的に定額を与え、足らなくなっても補填しないことです。現物支給やその都度の申請では、子どもの工夫は生まれません。使途は子どもの裁量に任せます。そうすると、子どもの頭はフル回転して創造力を発揮します。予算をつくり、一定額(例えば10%くらい)を貯蓄し、上手に使うことが、お金の良い癖づけになります。 十代の子どもには、将来のライフスタイルを決めるマネー面での基礎づくりですから、たとえば被服費を半年分まとめて渡すのもよい方法です。小遣いを使い切った子どもが泣き付いてきても、親は自己責任だからと知らぬ振りをするのはエネルギーと忍耐が必要です。しつけとはそうしたものでしょう。

<最大の資産は人>

――最近は日本でも、起業家教育を子どもに施す試みがありますね。

 起業家魂を「チャレンジする精神」「新しいものを作る熱意」と広く解釈すれば、目指すものは「やる気のある子」「自立した子」「自分で考える子」ということです。まさに、教育の要です。子どもに「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を伝授する」教育です。子どもは面白いことには創造力を発揮しますから、干渉しすぎて自立を妨げないことです。
 日本人は人目を気にし過ぎて、起業家精神が育ちにくいことに危機感を感じます。想像以上に日本の国力が落ちていることに、多くの人が気づいていません。
 アメリカには起業家を育む文化風土があります。子どもがベビーシッターや芝刈りなどで小遣い稼ぎをするのは、家庭階層に関係なく一般的なことです。カーター元大統領の娘エミリーも、報道陣がたくさん自宅に押しかけるのを見て、庭でレモネードスタンドを開設して、ひと稼ぎしたのですから。
 資産家やオーナー経営者の二世教育には、私たちが学べる点が多くあります。こうした立場の人に限らず、親であれば自分の築いたものや習得したものを、子どもに伝えたいと思うのは同じでしょう。参考になるのが、イギリス人やエリート層ユダヤ人の子弟教育です。アメリカでもロックフェラー家のような長い家系もあり、それなりに金持ちであり続けるための子弟教育のノウハウがあります。
 しかし、たいていの資産家は子弟教育に関する切迫感もプログラムもなく、それで資産家の65%が2代目で資産をなくし、同じく90%が3代目で使い果たしてしまいます。これは、アメリカ、イギリス、オーストラリア、オランダでも同じです。
 日本では、かつては武士道がありましたが、今はこれに代わる価値観の継承がなく根無し草の状態です。
 茶道の小堀流宗家は400年続いて、いまの家元は13代目です。家元は最高の文化的存在なので、後継者は幼いころから作法とともに価値観をしっかりと学びます。先祖の間があって毎日位牌にお参りし、先祖に対して非常な感謝と尊敬を払うわけです。
 伝統というのは膨大なデータベースです。古いものに関心を持つと、そこからイノベーション(技術革新)が生まれます。
 資産はお金だけでなく、人間が一番の財産なのです。子どもを初代のように鍛え上げれば、たとえお金を残せなくてもビジネスはまた起こせます。後継者を不良資産にしないように鍛えておくことが大事です。これをうまくやっているのが、歌舞伎や茶道のような伝統芸能や伝統文化の世界だと思います。

<人のために使う>

――金銭教育の重要な側面として、寄付やボランティアにも触れています。

 子どもには「お金を貯める」「上手に使う」ことと同じくらい、それを「社会に還元する」ノウハウも早い時期から教えたいものです。日銀が配布している小遣帳に「人のために」という欄がありますが、せいぜい身近な人へのプレゼントや募金への支出でしょう。
 アメリカでは、キリスト教の10分の1献金の教えに従い、「小遣いの例えば10%は寄付しよう」と指導するので、金持ちだけでなく借金のある人までが寄付をしています。節税目的の寄付もありますが、「資産は一時的な預かりもので、社会に還元する道義的責任がある」と考えて寄付をする人もいるのです。アメリカのベテランのファイナンシャル・プランナーによれば、お金が入るのは、不思議と一度お金を手放す人だというのです。
 これから日本の社会は、仕事だけに生きがいを見いだすのは難しいでしょう。時間やお金が余ったからではなく、生活の一部としてボランティアをしたほうがいい。人間は人のために何かしないと、バランスがとれないようになっています。車椅子を押されている人よりも、押している人の方が幸せそうな顔をしているでしょう(笑)。


お金を日陰者扱いせず、夢を実現する手段として、子どもの頃からお金とのつき合い方で良い癖をつけることが大切だと説く。国際投資コンサルタントで、資産家の二世教育の第一人者が、子どものマネー・マネジメントのノウハウを開陳し、親の意識変革を迫る。
 『金銭教育』榊原節子  総合法令 本体1700円