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欧米資産家に学ぶ二世教育
§ 第90回 家風 ─ 受け継がれるもの
「家風」というと、「この”個の時代”に何を古めかしい」と思うかもしれない。
ところが、世界の資産家を対象とした調査では、5世代以上今も続くファミリーの特徴として「語り伝えがしっかりしていること」が
挙げられている。
実際、世界の資産家ファミリー達はあらゆる努力を払って先祖の「物語」を子孫に伝えようとし、
親や親類のエピソード、家風の継承を大切にする。
彼等にとっては決してなじみの深いものではない、「家訓」やら「家憲」づくりにすらいそしむファミリーもいるのである。
私の実父は量子力学の面で業績を残し、1950年から63年の間にノーベル物理学・化学賞の候補になった6研究者の一人であったと、
最近になって新聞紙上で報じられた。
現在は毎年のように甥の一人と従兄の一人が夫々ノーベル生理学・医学賞や化学賞の候補となって新聞に登場する。
私はこれも家風ではないかと思っている。
実家の家風がだいぶ世間一般と違っていると気づいたのはいつだっただろうか?
「他の人と同じ」というのは我が家では軽蔑された。
「世間と同じが無難」という発想は全くなく、他人がどう思うかも気にしない。自分の好きなことを好きにやる。
自分の主張はオーバーな位に訴える。日本では自分勝手で偏屈もののレッテルが貼られる。
しかし、この家風は「あたらしいものを作りだしていく」ことには向いているように思う。
「努力家」の家風もある。
父は電車に乗れば一分の時間も無駄にせず論文を開いて読んでいたから、私たちも真似た。
ガンを患い85歳で亡くなる2週間前まで論文を書く後ろ姿は、家族全員の脳裏に刷り込まれている。
3歳の孫まで電車に乗ったとたん絵本を開いたのには仰天した。
我が家にはよく泥棒が入った。父は泥棒対策のさまざまな仕掛けづくりを家中に張り巡らせ、定期的にアップグレードしていた。
そんな環境に育てば、兄弟全員アイディアマンになろうというもの。兄たちは大きな発明や発見をしたし、
才能に恵まれなかった私もほとばしるようにアイディアだけは出て、大失敗も繰り返している。
父には、「どうしてだと思う?」という質問もよくされた。
答えはないのである。(そういえば「世界でもまだ答えが出ていない」と言われた記憶がある。)
私は昔、子育てしていた時こうした家風を子供達にも伝えようと、手作りの「考えるワークブック」を考え出した。
記憶にあるのは「巨人と阪神のユニホームが違うのは何故?理由を10個言って」という問題である。
一つ二つならだれでも考えつくが、10個となると頭を駆使しなければならない。それがいいと思ったのである。
「今までにない新しい遊びを考え出してください。」は我ながらよい質問だったと思ったのだが、
子ども達は全く記憶にないようである。
残念ながら誰も研究者の道は選ばなかったが、それぞれの分野で創造力を発揮していることとひたすら信じている。
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