FP研究所 『FP E-Press』 掲載内容
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     【 なぜ資産は三代ともたないのか 】  2001年12月19日号掲載

自分で築いた資産を子孫に残したいというのはごく自然な感情だと思う。それで相続対策をあれこれ試みる。しかしある米国の統計によると、資産家の65%は第二世代目で資産をなくし、なんと資産家の90%が第三世代目でその富を使い果たしてしまうという。驚いたことに同様の統計が英国でもそして相続税のないオーストラリアでもでている。ということは身代が三代ともたないのは、どうも相続税のためではないようだ。うまく継承プランにそって次世代のお金を残す人も必ずしも成功しない。やはり米国の数字で恐縮だが、富裕層の46%は成人して独立した子供や孫に、毎年少なくとも1万5千ドルを与えているという。節税を考慮した継承プランである。しかし他方で、こうした金銭援助を受けた人のほうが、蓄財額が少ないという意外な結果もでているのである。なぜ富の継承はうまくいかないのだろう。

いくらお金が物理的に継承されたとしても、受け取り手に健全な金銭感覚を育ませない限り、お金を扱う術を教えない限り、そしてもっと基本的には価値感を伝えない限り、どうもお金は消失する運命にあるようだ。考えてみれば当たりまえのことで、資産というと私たちはどうしても物理的な資産に目がいきがちだが、その物理的資産を生かすのも殺すのも持主次第である。この人的資産のほうが不良資産ではどうしようもない。

FPは節税対策、相続対策の案を練る。勿論それ自体に意味がないというのではない。しかし、テクニカルな面だけでは、継承はうまくいかないのである。伝統芸能の世界を考えていただければお解りいただけると思うが、本当に子供のうちから体で芸を教え、同時にその背後にある価値感の継承がなされるのである。それで歌舞伎でも茶道でも次世代への受け渡しが時間をかけて行われる。資産に関しても同じではないだろうか。

日本ではお金に関して子供に早くから教えるなんてーーとか、お金は汚いという、時代に則していない考えがまだ横行している。しかし、子供のときから小遣いを通してのマネーマネージメント術、定期的な貯蓄の癖付け、節約のやり方(欲望のコントロール)、予算という楔をはめること、リスクコントロールされた上手な運用の仕方、などをきちんと教えておくべきである。それをマスターした人が将来蓄財優等生になり、夫々の夢を実現していくのである。

欧米の資産家は自分を含めたファミリーの資産管理をするため、よくファミリー・オフィスをつくる。会計士や弁護士を、時にはファンドマネージャーも雇って資産の管理や運用をやらせる。米国だけで5000位あるそのようなファミリー・オフィスはまた、子弟の金銭教育にもたずさわる。たとえばロックフェラー家のファミリー・オフィスでは、若いファミリー.メンバーが16歳、18歳、21歳になったとき、オフィスに呼んで入念な投資に関する説明を行う。株式や債券などの金融商品の勉強もさせる。私の知っているカーティス家のファミリー・オフィスでも6歳になると子供にお金を渡して、証券会社に口座を開設させ、オフィスの指導のもと、株式投資を体験させて、リスクを肌で教えている。

会社の経営同様、資産を継承させるには、ミッションステートメントを作ることが有用である。自分たちはどのような苦労をして財をなしたのか、そのお金で何をしたいのか、子供達には何をして欲しいのか、ファミリーの資産の継承を考えるなら末代までも意識したメッッセージを残す事が重要となろう。それもできるだけ夫婦、子供達、関係者の希望を集約したかたちのほうが、長続きがする。夫々の家族には家族文化といったものがある。相続プランも、また運用もその家族文化に合致したものであるべきだし、場合によってはFPは金銭面だけでなくこのファミリーの価値の継承の部分にまで関与することが要求されるのではないだろうか。

くわしくは、「金銭教育―お小遣いから資産家の二世教育まで」を最近上梓したのでご購読を乞う。