アルバイトのつまみ食いをし、投資のつまみ食いをした私はまた職業もよく変えた。履歴書の所定の欄ではとても書ききれない。大学卒業後はまずプリンスホテルチェーンの海外宣伝の仕事につき、ついで外国特派員の助手、英語教室を開催して、その次の十年が国際会議の同時通訳をやった。ついで証券会社で企業買収をやり、1991年自ら国際投資コンサルティング会社を設立し経営を始めた。この他にもこまごました仕事を やり、結婚し、子育てもしたから、いつも頭や体はフル回転の状態だった。そして、いつも時間がたりなかった。
そこで時間の効率的な活用法を色々考えた。例えば睡眠時間を削るのも一つの方法だ。実際、あるオーナー会社の社長は若いときに睡眠は三時間とれば足りるように訓練したという。何事も意識の問題だから、三時間で充分だと自分に言い聞かせれば別に不都合はないそうだ。私も試してみたのだが、病気になった。
別の方法もある。一度に幾つものことを同時に平行してやってしまうやり方だ。私は同時通訳をやっていたこともあってこの方法にはかなり熟達している。そのコツは時間を細切れにして瞬時に頭を切り替え幾つかの事を同時にこなす。例えば電話での応対をしながら、隙をみて傍に置いてある雑誌に目を通し、しかも爪にしっかりとマニュキアを塗るという具合である。ただこの方法は年を取って来るとアブ蜂とらずになる。
物凄く集中力を高めて仕事の効率化をはかる方法もある。同時通訳をしていた時のことだが、医学とか、宇宙開発とか、科学関係の仕事が多かったため、やたらと覚える単語が多かった。日本語ですら知らない単語を詰めこむ必要にかられて、自分でも驚くほどの集中力が養われた。とくに会議の始まる前三十分ぐらいは、火事場の馬鹿力ではないが、1〜2日分かけたのと同じくらいの単語があっさりと頭にはいっていくから不思議だ。 しかしこの火事場の馬鹿力をやると、どっと疲れがでる。私には向いてい ない手法なのかもしれない。
もっと高度な、「無駄な動きをしない」という効率化の方法もある。よく仏教などで修行を積んだ人が、急がずとも、あせらずとも、会いたいと思う人は不思議と先方からやって来るという。こういう人は毎日なにをやってもスムーズに行くらしい。電車やバスの乗り換えですら不思議と待たないという。 このレベルに到達するのはむずかしいにしろ、私達は心身の無駄な動きが多い。過去の間違いにくよくよする、取り越し苦労をする、他人を妬む、みな感情の無駄だし時間の無駄だ。第一体によくない。なにも特に無理をして時間の節約をはからなくても、平静心を保って仕事の優先順序を間違えなければ、充分に人一倍の仕事をこなし、なおかつ自分の好きなことをする時間もつくれるのだと、やっと今になって気が付いた。